ネパール「食」体験

ネパール「食」体験

モモ、パニプリに、ダルバート。地元の食を食べ尽くす!

ネパール食、というと有名なのはダルバート(Dal Bhat、ダル豆の煮込みとごはんの定食)やモモ(ネパール式餃子)でしょう。ところが今やカトマンズは、食都と言っても良いほどの発展ぶりで、昔からのインド料理、中華料理、コンチネンタルはもとより、イタリアン、メキシカン、ロシア、タイ、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、シンガポール、韓国、日本等々、世界中の食事がこの狭い盆地の中で縦横無尽に楽しめるようになっています。しかもほとんどのお店が自国民による経営なので、安い割りに はずれがないのがお値打ち。加えて地元民のお気に入りであるタカリ料理(Thakali)やネワール料理(Newari)、チベット料理(Tibetan)などなど、食には困らない、というより、何を食べるか決めるのに困ってしまう一大グルメタウンです。

郷土食が一番その土地をよく現す、と言います。ネパールには、フランスや中国にみられるような際だった「ネパール料理」といえるものは残念ながらありませんが、多民族国家であることを背景として、それぞれの民族が守ってきたエスニックフードはバラエティ豊かです。地理的にインドと中国の影響を大きく受けているのは自然の流れですが、その中でも特筆すべきはネワール民族(Newari)とタカリ民族(Thakali)の伝統料理でしょう。この二民族の食事はメニューも豊富で、さまざまな食材を多彩な料理法と味付けで調理してあり、季節祭祀の際の特別メニュー等もあるので、とても一度では味わいきれないバリエーションが楽しめます。

一般的なネパールの食事として知られているのが「ダル・バート(Dal Bhat)」というひと皿盛りの定食です。大衆的な定食屋で「めし」といえば自動的にこのダル・バートが出てくるほどポピュラーな食事で(ベジ、ノンベジは指定します)、通常、大皿の真ん中に「バート(Bhat、インディカ米を炊いたご飯)」を盛り、小さな器に注いだ「ダルのスープ(Dal Soup、レンズ豆の煮込み)」が付いてくるため、この名で呼ばれています。その他の付け合わせおかずは家庭やお店や季節によってさまざまですが、ご自宅で多様な食材や味付け、多国籍の料理を楽しんでおられる日本の方にはその違いがすぐにはわからないかもしれません。ご飯と豆のスープを基本に、一般的には「タルカリ(Tarkari、さまざまなネパールの野菜)」と呼ばれる、野菜をカレーベースの風味で様々に調理したおかずが付き、脇に「アチャール(Achar、漬け物)」が添えられます。このアチャールもトマトやニガウリ、タケノコやダイコン等々さまざまな素材が用いられ、発酵の浅いもの深いもの、しょっぱいもの辛いもの、など、食べ慣れてくるとその違いが楽しめるようになるでしょう(激辛以上の辛さのものも多いので、辛いのが苦手な方は要注意です)。

ヤギ肉、トリ肉、時にブタ肉をカレー風味で煮込んだ「マス(Masu=肉。ヤギ=カシまたはコシ、トリ=ククラ、ブタ=スングル)」のおかずも選べますが、肉はそもそも高価であること、電気や冷蔵庫が行き渡ってない(長期保存がきかない)こと、そもそもベジタリアンが多いこと、等の理由もあって、いつでもどこでも食べられるとは限りません。地方ではダサイン大祭の前や冠婚葬祭等でしか食べない(食べられない)、という場所も多くあります。それでも最高級のヤギ肉カレーは日本ではなかなか味わえない逸品ですので、機会があればぜひ試してみて下さい(ヤギ特有の匂いは多少あります)。

このほか小麦粉で作る「ロティ(Roti、発酵させない平焼きパン)」や、さまざまな穀物の粉を練って作る「ディド(Dhedo、そば粉のものは そばがきそっくり)」なども、地方によってはポピュラーな食事のひとつです。

その土地その土地の郷土料理を味わって初めて、旅が完成すると言っても過言ではありません。その意味でネパールは、標高や気候によって収穫できるものが違っていた古式農業がまだ生きているため、土着の郷土料理が普通食として供されています。いわゆる主食ひとつとってみてもコメ食の場所が大半ではありますが、昔ながらのそば粉の加工食品(そばがき、そば粉のロティ等)、小麦粉の加工食品(ロティ、麺等)、トウモロコシその他の穀物・粉、等々、幅広いバラエティが見られます。コメも普通に炊いたり蒸したりしたもののほか、おかゆ状にしたもの(ジャウロ、Jhaulo)、炊いて軽くつぶして干したもの(チウラ、Chiura)等々、風土に合わせた調理法が発見出来るでしょう。

当然、おかずとなる料理にも郷土による特色が出ており、これらを食べ歩くのも、ひとつの旅の楽しみといえるでしょう。

中部丘陵地帯の地元グルメとしては、冒頭にあげたネワールとタカリの料理があります。ネワール料理は生活および祭祀儀礼と密着しており、日々の食事、祝いの日の食事、大祭の食事等々、極めてバラエティの広い食文化です。飲酒、肉食を是とする彼らの文化では、水牛を余すところなく食べつくす全席的メニューもあり、身内で行う大祭の時などに供されています。そこでは肉質や部位に分けた料理が供されますが、ムネやモモ、肝臓やバラ肉等は基本中の基本で、舌、肺、食道、眼、尾、耳、鼻、脚元、脚中、脚先、脳、脳髄、脊髄、横隔膜、陰部、頭皮、頬皮、などなど、あらゆる部位を、長い歴史の中でベストとされる料理法で調理し、参拝客に振る舞います。一方で日常的には、ヨーグルトに上述したチウラを混ぜてお昼をすませたり、ネワール式モモだけですませたり、と、非常に興味深い食文化を持っています。

タカリ民族は、ポカラの北、ムスタンの南を本拠地とする民族で、かつては王国を有し、いまでも独自のタカリ文化を継承するひとびととして知られています。料理上手、商売上手としても有名で、コメとダル煮込みと野菜の基本のダルバート(アチャールつき)ですら、その一つ一つの料理のあまりの味の際立ちに、一瞬、食べる手が止まることでしょう。熱々に熱したギー(Ghee、バターオイル)をふんだんに使うことでも知られています。カトマンズにもいくつか有名店がありますが、ポカラは彼らの本拠地ですので、一度はタカリレストランを訪れてみるといいでしょう。腕自慢のシェフもたくさん居ますので、有名店、無名店にかかわらず、シェフの腕の良い店を探してみるのも楽しみ方の一つです。

ヒマラヤ山岳地帯になると、チベットの影響を受けたチベット系の食事が増えてきます。伝統的保存方法としてのチーズ(特にヤクの乳を利用したヤクチーズ)、バター茶、チベット系ヌードル(トゥクパ、ツァンパ等)などが普通にメニューに顔を出します。一方で、敬虔なチベット仏教徒の地域、宿では、肉が一切出てこないこともあります。

これがテライ平原になると大穀倉地帯であることを背景に、穀物も野菜類も豊富にあるため、伝統食であればメニューのバラエティは豊富です。

ネパールの食習慣は一日に一食または二食が普通で、これに間食(軽食)が入る、と考えた方がわかりやすいでしょう。朝または仕事や学校に出る前は、しっかり一食を摂るか、軽食とお茶ですませるかのどちらかです。日の出ている間はお腹が空いたら軽食を摂り、一日の終わりに本格的な夕食を摂るのが一般的なスタイルです。もちろん西洋方式に合わせた学校などができているので、朝、昼、晩(間におやつ)、という習慣も広まっていますが、伝統的には一食または二食に間食をはさむのが普通です。この場合の間食はおやつというよりは昔ながらの軽食メニューで、それなりに調理したおかずになにがしかの炭水化物食がついてくるので、日本人的にはざるそばやサンドイッチのような、十分な一食と言って良いかもしれません。(しっかりした食事をカナ(Khana)、軽食的な食事をカジャ(Khaja)と呼びます)

こうした間食の代表例のひとつがモモで、ノンベジ(水牛、トリ肉、たまにブタ肉)、ベジを選び、お店によっては蒸す以外に揚げ、焼き、茹での調理スタイルも選べます。さらに最近では辛めのスープにモモを浮かべた「モモ・チャ」も、ちょっとしたブームになっています。これもカジャの一つですが、かなり食べ応えがありますので、人によっては十分な一食といえるでしょう。

※近年政府は衛生管理を強く指導し、各店も気をつけていますが、停電等の影響や土地の水の関係、高度による沸点の低下、さらに飲食される方の旅の疲れ等々もあって、下痢(時に激しい下痢)をしてしまう方もいらっしゃいます。気になる方は飲食の際に同行のガイドさんにこまめに相談されるといいでしょう。また激しい下痢の原因は細菌性の場合が考えられます。一時絶食や水のみ、日本の下痢止め等で改善しない場合は、医療機関を受診し、処方される薬を服用してみてください(細菌性であれば、通常、抗生物質が処方されます。近年自然治癒が推奨されていますが、日本で発症した場合は菌によっては隔離される可能性もありますので、この点、ご注意下さい)。

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