登りつめれば地球のてっぺん。
ベースキャンプからさらに富士山ひとつ分あるエベレストの山頂。ここを自分の目で見るだけでも、人生の価値観は変わります。ことエベレストに関しては、単なるトレッキングやクライミングの対象を超えた何かの意味が、こころの中に覚醒するのではないでしょうか。エベレストで人生が全く変わったという人もいれば、ここでのクライミングこそが涅槃(ねはん)体験だ、と言った人もいました。ネパールの東北国境にあるこのあたりは、難山エベレスト峰を中心とした大氷河地帯であり、また秘境中の秘境の地であり、そしてまた、荘厳な山嶺群の地でもあります。
高名なシェルパの住む村々を通り抜けていくこのトレッキングは、肉体による登高作業であると同時に、文化と信仰を体感する精神作業でもあります。リンポチェ(Rinpoche)と呼ばれるチベット仏教の高僧とそこで学ぶ僧や尼僧達が、シェルパの共同生活体の中心・ゴンパ(Gompa、寺院)の中から、空に、村に向かって、祈りを捧るなかを黙々と歩いて行きます。
世界中のクライマーやトレッカーが、今でもエベレストベースキャンプを目指して毎年のようにネパールを訪れています。そしてまごうことなき「世界の屋根のてっぺん」であるエベレスト山頂は、野心的なクライマーにとってその輝きをまったく失わない「最も大事な成果」のひとつであり、高みをめざすアルピニストにとっての楽天の地であり続けています。