エベレスト山域に匹敵する人気を誇っているもう一つのコースが、アンナプルナ周辺地域のトレッキングです。“アンナプルナ
一周トレッキング”のフレーズはよく耳にしますし、実際に訪れたトレッカーの数からみても、断然人気のコースであることは間違いないと言って良さそうです。“アンナプルナ
一周トレッキング”とはその名の通り、世界で最初に登頂された8,000m峰であるアンナプルナⅠを含むアンナプルナ山脈を中心に、その山域周辺をぐるりと一周するものです。
またこの地域には、アンナプルナⅠの西に位置するもう一つの8000m峰、ダウラギリもあります。これら二つの高峰の間にはカリガンダキ川があり、この渓谷は世界で最も深い峡谷として知られています。緑豊かで肥沃な農地や、全く人の手が入っていない天然の森林、さらには雪に覆われた高峰群などの景観に加え、さまざまな種族が交錯する新鮮な世界との出会いなど、トレッキングといいながら、山岳体験以外のあらゆる文化的観光体験ができるため、アンナプルナ地域はネパールで最も満足度の高いトレッキング地域の一つとされています。
アンナプルナ連峰は内奥地にあることから、山脈のかなりの部分が雨陰(ういん、Rain Shadow)に入ります(※モンスーンの雲が高峰に阻まれて、南斜面で湿気をほとんど落としてしまう)。結果としてアンナプルナ連邦の北側は南斜面にくらべてかなり乾燥することとなり、これがこの地域に非常に多様な景観をもたらし、さらにはモンスーン期間中のトレッキングをも可能にしています。
トレッキング許可証と許可料金
アンナプルナトレッキング領域のトレッキングに際しては、ACAP(アンナプルナ保全地区プロジェクト)の許可が必要となります。ただしムスタン上部に入る場合はさらに、滞在期間に応じて特別許可が必要で、それに即した料金が徴収されます。その他ムスタンに関する制限事項は後述しますが、これから述べるアンナプルナ山域トレッキングに関連するほとんどの地域がACAPの制限領域内で、入域許可証を購入する必要があります。許可証はトレッキングを開始する前に、カトマンズやポカラで取得することができます。これらの収益のほとんどは、アンナプルナ保全地域の発展のための事業に使用されています。
行き方
アンナプルナ山域のトレッキングは、どういうコースを選んだとしても、ほとんどの場合が始点も終点もポカラになります。ポカラはカトマンズの西方200キロに位置し、カトマンズからは陸路で5~6時間、空路なら30分で到着できます。陸路の場合は、カトマンズ、バイラワ、チトワンから毎日多数の観光バスが出ています。ポカラとその周辺は、十分な観光施設があります。ポカラ近郊の3つの湖の中で最大のフェワ湖沿いのレイクサイドとダムサイドと呼ばれる両地区には、トレッキング/旅行代理店も多数あり、みやげ物やトレッキング用品に加え、幅広い宿泊施設や飲食施設を提供しています。アンナプルナ山塊の東側をトレッキングする場合は、ラムジュン郡の郡庁であるベシサハールがそのスタート地点となります。しかしルートのかなり上まで道路があるため、クディやブルブレといった、かなり奥の地点からでもトレッキングを開始することができます。カトマンズ、ポカラ、タライからのバスは、毎日ここまで運行されています。カトマンズからベシサハールまでバスで移動する際には、大体4~5時間が必要です。また、ポカラが始点・終点となる大部分のトレッキングには、実際に歩き出す地点までのバスやレンタカーが必要になります。詳細はそれぞれのトレッキング案内をご覧ください。
動植物
容易に想像できる通り、アンナプルナ地域の地理的・気候的条件により、域内の動植物は非常に多様性に富んでいます。標高1,000m以下のポカラとベシサハールは共に亜熱帯気候であるため耕作が盛んで、ほぼ一年中棚田の風景が広がっています。冬にみかんが採れることでも知られ、麓の沿道では木に付いたままの新鮮なみかんを直接その場で購入することもできます。さらに丘を上昇すると自然植生は亜熱帯種から、カシ(oak)、ブナ(beech)、シャクナゲ(rhododendron)など、一連の温帯種の森林へと変化していきます。そして最後にはマツ(pine)やジュニパー松(juniper)の針葉樹林が取って代わり、森林限界のぎりぎりまで広がっています。一方で山の北側の雨陰(ういん、Rain Shadow)となる、チベット高原の延長線上のエリアは不毛地帯なため、灌漑農業ができる河川域を除けば、小さな茂みや低木しか育ちません。野生動物では、ナキウサギに似た多種多様な鳥に加え、小動物としては青羊(blue sheep)やヒマラヤタール(himalayan tahr)などが観察できます。
トレッキングのスタイル・方法
アンナプルナ地域のほとんどのトレッキングルートには、歩き始めから歩き終わりに至るまで、質の良いサービスを提供してくれる、ティーハウスと呼ばれる簡易ロッジがあり、特にジョムソン、アンナプルナ一周、アンナプルナベースキャンプのような人気のトレッキングコースでは、ほとんど心配は要りません。しかしトレッカーは常に、悪天候やけがや病気などにより、簡易ロッジと簡易ロッジの間のどこかで立ち往生してしまうリスクがあることを意識しておく必要があります。特にトレッキングの行程上、人の居ない僻地を通る場合はなおさらです。アンナプルナサーキット中には、一日がかりで標高の高いトロン・ラ(峠)を越えてゆく非常に長い行動日がありますが、これが一つの良い例です。途中には退避が可能な場所は殆どないのに、何の準備もないまま悪天候や高度障害に見舞われてしまったトレッカーも少なからずいるのです。まして開発が殆ど進んでいないダウラギリ・サーキットやラムジュン東部のトレッキングでは、自分の食料や退避手段は自分自身で準備することが求められることは疑いの余地がありません。
人々と文化
アンナプルナ地域でもっともよく目にする民族は、グルン族、タカリ族、マナン族です。グルン族はマルシャンディ川とカリガンダキ川の間に位置する丘陵と谷間を中心に、ゴルカ地区の丘から遥か西のパルパまで最も広い地域に分散しています。タカリ族はジョムソン周辺のカリガンダキ渓谷上域出身で、伝統的農業を営みながら補完的に通商にも従事しており、特にホテルやレストラン事業に特化して進出しています。俗に「マナンゲ」と呼ばれるマナン族はマルシャンディ川の上流に住む民族で、多くの点でグルン族に似ており、おそらく同族だろうとされています。彼らのルーツはチベットとされ、熟練した貿易商でもあります。丘陵地帯の中でも奥地に居住するマナン族とグルン族は、古代より仏教の信奉者でしたが、彼らの信仰には今でもシャーマニズムの影響が顕著です。それより南の地域社会では主にヒンドゥー教が信仰されています。この地域一帯では特にグルン族の文化芸能が知られており、トレッキング中もごく普通に目にすることでしょう。トレッキングの主なシーズンには、山道沿いの多くの村でトレッカーのための文化芸能が披露されます。
時期について
ネパールのほとんどのエリアでは、春と秋が最高のトレッキングシーズンです。春はシャクナゲ(rhododendron)の開花の時期であり、10~11月のモンスーンが明けた後の秋は、最もきれいに澄んだ空が見られます。これらの時期は通常、天候も穏やかで雨もほとんど降りません。またこのあたりには雨陰(ういん、Rain Shadow)に入っている地域がありますので、ネパールの他の地域と違って、6~9月のモンスーン中でもトレッキングには理想的な時期といえます。特にムスタン高地などは、雨期の訪問先としては最適と言えるでしょう。冬は、山麓であればトレッキングに適した状態ですが、高所にある峠道は豪雪により閉鎖されることがあります。
スタッフを雇う
カトマンズでスタッフを雇わなかった場合でも、ポカラのレイクサイドに事務所を構える多くのトレッキング代理店を通して必要な手配をほとんど全て行うことができます。ポーターはアンナプルナサーキットのスタート地点であるベシサハールなどで雇うことができますが、ガイドや必要な道具など全ての手配を確実にこなせる、信頼できる代理店はポカラにしかありません。